9月30日(月)

大道具のこと

 9月30日、16:30。我が家へ帰って来た。この4日間、高知市が今年オープンした「カルポート・・」での日本舞踊の大道具仕事。土曜日は仕込み兼リハーサル、日曜日は本番、それをはさむ両端の二日は南国市にある作業場で荷積みと荷下ろしという日程だった。書き出しの感じだとまるで4日間まるまる家を空けていたように聞こえるが、実際は毎日家に帰っている。しかし、舞台仕事は場所も時間も異空間の感強く、終わってはじめて帰って来た気分になる。

 大道具の世界とは約10年前、一度目の失業時に出会った。それまでの仕事は時計、宝石、レコードを扱う小売業に従事し、15年の在職中ほとんどが経理担当だった。舞台関係とは全く関係ない仕事をしていたのに何故?ルーツはその前の大学時代にある。学生の頃僕は、ちょうどその頃全盛のシンガーソングライターブームにスッポリはまり、仲間とグループを作って人前で歌を歌うというようなことをやっていた。その頃知り合った劇団関係の仲間が舞台との関わりをずっと続けていて、僕の退職時に誘ってきたというわけだ。
 大道具と一言で言っても、様々な舞台に応じて様々な有りようがあるので説明に困るのだが、例として日本舞踊をあげることにする。ひとつの踊りが終わって幕がおりる。その時舞台には踊り手の後ろに海の情景が広がっていた。しかし、何分かして場内アナウンスのあと幕があがるとそこにはうって変わって山の情景。遠くにかすむ夜の連山、空には月がかかり、近景には並び立つ大きな杉木立。このような舞台上での情景転換には大道具のスタッフが関わっている。
 こんな風に書くとさも自分がその道のプロみたいに聞こえるが、そうではない。この道を本気でやっている人、命がけの人に失礼にならないようここはちゃんと断っておかなければならない。大道具をやるには腕力も必要、しかし腕力だけに頼らない力のバランス感覚も要る。舞台を飾る書割を作ったりする大工仕事は舞台用の一種特殊なノウハウも要る。そして何よりも舞台を飾る美的センス!!そのどれを取っても僕はたいしたことない。最近はそうでもないが、釘を打てば釘の頭より周りの木材や自分の指を打つことの方が多かったし、ノコギリの扱いもいつまでも身につかない。「色男、金と力は・・・」の言葉どおり腕力もないし、(しまった、ここらからせっかくの真面目な文調がいつものオチャラケになりそうだ。どうしよう???)「何故僕はここにいるのだろう」と大道具に関わるたびに必ず一度は思ってしまう。
 ひとつだけ思い当たることは、「僕が本当にまともな人間だから」ということ。劇団で芝居をやっていた人、絵描きになりたかった人、バリバリのミュージシャン・・そんな個性の強いメンバーがいる。別に役者くずれ、絵描きくずれ、ミュージシャンくずれが吹き溜まりのように舞台裏に集まったというのではない。ハートとしては彼らは今も現役なのだが、縁あって裏方にも関わっているというのが正確なところだろう。そんな強烈な個性達にとって僕のようにまともな人間はどこか珍しくコミュニケーションのクッションとして一つの面白い素材になっているような気がする。しかし、僕がこのようなことをいうと、総がかりで返って来る言葉は「おまえが一番変わっている!!ヘンだ」。(皆さんはどう思います?まぁ、変わってる人たちがいうのだから全然気にならないけど・・・。)僕としては、こういう仲間や毎回起こる何らかの新しい舞台経験が捨て難く、非力を自覚しながらも関わっているのだが、「非力だということ」に神経が集中してしまうと「僕はここにいてもいいんだろうか?」と思ってしまうことも正直なところだ。

 大道具に関しては、我らが棟梁のこと、僕をこの世界に引きずり込んだSさんのこと、絵描きのMさん、金髪で顔の凹凸がしっかりしているけど日本人のE君、何故プロになって音楽で世界を目指さなかったのと思わせるK君、「役者=川原乞食」論のKさん、一見普通の人を装いながらしっかりとこの世界に関わっているS坊さん。バレエの舞台でのレオタード姿のいろっぽい3歳児との交流などなど話はことかかない。時々この日記でも紹介しようかと思う。

  間・・・・・・・・
(読者の方は芝居風にここでちょっと間を取って次の閉めの段落を呼んでくださいね。)

(情景・・・帰って来た我が家の窓から空を見上げている僕。)

 大道具に関わり始めた頃には、一つの舞台ごとに必ず「なぐり」(金づちのことです)で指を打ったり、カッターで手を切ったり、釘で腕や背中をひっかけたり、後で自慢できる(?)怪我をしていたものだ。最近はそんなことも少なくなり、今回の怪我は左手人差し指にちょっとした擦り傷だけ。その指をさすりながら窓越しに空を見るとそこにはwindows98の起動時の画面とそっくりの青空が広がっていた。そうだ、僕は工房GUSUKUをやってたんだ。さぁ、モードを変えなくちゃ。ピッ・ピッ・ピッ・・・

 ソンナワケデ工房GUSUKUハ千客万来!!ドンナ仕事デモイラッシャイマセェ!!
(ヨシッ!!・・・)