10月26日(土)

少年よ・・

 SP盤をCDにした。音楽CDの前の世代はEPレコードやLPレコード。SP盤はそれを更にさかのぼった、78回転の古い規格のレコードだ。厚みもあり下手な扱いをするとパリンと割れてしまいそう。ビクターのニッパー君が首をかしげて聞いている、あの蓄音機で鳴らすレコードだ。

 依頼主は我がパソコン仲間刈谷君のお父さん。年齢は僕よりもひとまわり先輩。角刈りの頭でちょっと見、いかつい顔つき。この前までは高知の代表的な飲み屋街、柳町の一角で夜の果物屋をやっていたこともあり、遠目に見ると「コワイ人かも・・・」と思わせるところがある。ところがところが、会って見ると実に少年チックで楽しい人だ。趣味で集めたコイン類を見せてくれ、「これはもうみんな売り払ってお金にかえる」と言う。「コイツらに残してもどうせ売り払ってしまわれるき」。コイツらとはお父さんの息子と娘、刈谷兄弟のこと。売り払うといいながらコインの説明をする時の表情はいい顔をしている。パソコンも楽しんでいてメル友もいるみたいだし、ネットでオークションも利用している。このSP盤もオークションで落札したものだ。学生の頃聞いたオールディーズやクラシックの音を集めているらしいが、これはタンゴでバルバナス・フォン・ゲッツィ楽団(???)による「碧空(あおぞら)」。ザッザッザッ・ザザと刻むリズムがバンドネオンやオーケストラではなくピアノというのが特徴。「この音じゃないといかん」というこだわりの一品。またこの話をする時のお父さんの表情がいいんだ。年は関係ない。彼は少年だ。

 作業は結構大変だった。刈谷君のお父さんが貸してくれた、78回転のレコードもOKの電機蓄音機のヘッドフォン端子からパソコンへと音を取り込む。そこらは何でもないのだが、問題はその音。演奏よりもパリパリシャリシャリの方が大きい。これはこれは・・・。ノイズを取るためにいろいろと音の波形をいじくると結局は元の音を損なってしまうので、パリパリもシャリシャリも味として残すというのが僕のやり方だ。しかし、コレはちょっと事情が違う。ああでもない、こうでもないで幾とおりもやってみて、ここらが限界だろうと思われるところまでノイズを処理した。「トムとジェリー」の中で真空管式のラジオから流れて来る音、あんな感じになったのでここらで手を打つ。念のため加工前と加工後をCDに納めた。僕の苦労もアピールしたいし、もしかしたらこだわりでパリパリシャリシャリの方がいいかも知れない。

 「やっぱり、こっちの方がえい。」なんと(?)、やっぱり(?)、少年はパリパリシャリシャリの方を気にいった。これで1000円ナーリ。あぁ、僕の苦労は・・・。

 ご心配なく。僕は損はしていません。近いうちに僕のノイズ処理技術は更に進歩すること間違いなし!!そしたら、もう一回今回の作業をやり直して「どうだ!!」とプレゼントするのだ。どんな小さな仕事でも自分の作品。楽しんでいるのは僕の方かも知れない。

 少年よ、それまで待っていてくれ。ひとまわり小さな少年より。

 工房GUSUKUは先客万来。どんな仕事でもいらっしゃいませえ!!