5月 9日(金)

プーさん

 永国寺町、内山時江バレエ研究所。今日は、カラタチの北川氏のもと、バレエの発表会の会場づくり。県民文化ホールのオレンジとかグリーンでの仕事なら時間との勝負という感じになるのだが時江先生自前のスタジオということになると様子が変わる。最近のカラタチ経由の絵画関連じゃないけど、ここにも違う時間が流れる。

 スタジオは長ーい長方形、その長い二つの辺にはバレエのバーと一面の鏡。こちらが動くたびに大量の鏡のどこかにかならず写る自分の姿。

「エー?これ、僕が僕って思ってる僕と違うよー」

というのでここの仕事はいつも始まる。

 このスタジオは、僕が大学生の頃、「喫茶 永国寺」というので有名だった。豪華なつくりの高級喫茶。もう30年ほども昔の話。近くには高知女子大があり、世間はまだまだ明るい希望に満ちていた時代のような気がする。そんな時代の中でも「喫茶 永国寺」はまぶしい世間の象徴のようなところがあり、僕たちはその店に入るなんて発想は全くなかったし、関わりのある女子大生たちもほんの時々「贅沢」を味わいたい時に年に幾度か行く店だったように覚えている。コーヒーとケーキがおいしい「喫茶 永国寺」・・・。

 このスタジオに来て、元「喫茶 永国寺」のソファに座るたびに僕はタイムスリップする。帰れないあの日。帰りたくもないあの日々。青春という名の季節のとりかえしのつかないいくつもの淋しい思い出たち。そして、あの頃の自分と今の自分、そう何も変わってはいない。ただ、時が過ぎ、体が衰え・・・。でも心の中にはあの頃と同じ風が吹いていて・・・。これは一種の病気かも。「大人になれない症候群」ってか?

 昼休みのあと、スタジオで北川氏と会話。もっとも話してるのはほとんど僕。

「俺、自分が不幸なわけ分かったワ・・・。」

北川氏はいきなり笑う。

「そんなに嬉しそうに言うて、どこが不幸なが?不幸らいうてどこにもそんな影はないが・・・。プーさんが昼寝しゆうみたいな感じやかー。」

僕は気にしない。

「僕は不幸ながよ。けんど、その度に相手とか物のせいにしゆうけんど、ほんとは誰が相手でも何が原因でも僕は不幸ながよ。理由を見つけて不幸なように考えゆう。ほんとに幸せになりたいがやったら自分が幸せになったらエイだけのことやき・・・。」

北川氏はこういう時に素敵にニヤニヤと無口だ。

「ほんでよ、僕が僕を幸せやと思いたかったら、結局自分が自分に納得せんといかんがよ。その上でその価値がほんとにわかる人が評価してくれたら、自他共に認める幸せながよ。何をしたらぼくは納得するろう?」

さりげない北川氏はべつに何も答えない。

 

さぁ、続きの作業をやるか・・・。