2015年10月18日(日)

一味

 午後1時過ぎ、亡き友T内さんのお宅へ。

 T内さんがプログラム開発をしていた仕事場の足元の配線が一杯でホコリも噛んでるし、そこをスッキリしたい。それとT内さんのアンドロイドアプリ開発ページの登録内容を現状に合わせたい。

 そういう電話をくれた息子さんの声や話す抑揚はお父さんとソックリだった。

 アレレ、T内さん死んでないよ。ちゃんと息子さんの中で生きてるじゃないか・・。1年ぶりに救われたような気持になった。

 T内さん亡きあと、僕は「人は死ぬんだ」という思いに取りつかれている。

 元々人の生き死にということを考えない日は一日として無い人間だったところへ、まだ若すぎるT内さんの「死」に僕は相当堪えてしまった。僕はこういうことにとても弱っちいつまらん人間なのだ。

 でも、こんな形で、息子さんに自分の特徴を継ぎ渡すという形で人は生き続けることも出来るんだ・・。

 奥さんは僕の以前の職場の同僚だし、息子さんが僕を紹介してしてくれた元々はT内さんのお客さまだった方々もほとんどお伺いしてT内さんがどんなお客様を持っていたかの話も出来るし、T内さん宅には仕事が無くても一度はお伺いしたいと思っていた。

 T内さんの仕事場には今もT内さんのタバコの吸い殻が灰皿に積もっている・・

 「まぁ、こんなにタバコを吸うて〜!!」

 二階の遺影の横には難しい顔をしてパソコンに向かうT内さんの写真が増えていた。

 「まぁ、こんな難しい顔をして!!」

 冗談交じりで責めて、亡き後も決して消えていない彼の存在を確かめる。

 T内さんの足元の配線は丁寧に一本一本追いかけて、僕のこだわり、床に接触しているケーブルは一本たりとも無い形で整理した。(僕自身の部屋はT内さんと同じく配線が絡み合ってるのにネ(^.^) )

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 「ねぇ、一味は作った?」

 「うぅん・・、私には作れなかった。」

 何をやっても徹底的にやるT内さんが作った一味は激辛大好きの僕が「すごい!」というものだった。プログラム開発をやるT内さんは、畑を借りて野菜を作るなんてこともやってたのネ。

 「T内さん、一味だけでも仕事になると思うヨ。ネットで売ったら?」

 1本売れるだけで何十万にだってなるプログラムを作っている人に、失礼と分かりつつこういうことを言ってしまうほど、一味の方もすごかったんだよねぇ。

 「冷蔵庫にまだあるけど、あれはもうダメだろうね。」

 「ダメって言ってるってことは、もう使わないんだよネ。」

 「そう、私も息子も使わないし。」

 一味を2本ももらって来た。これが無いばかりに、この1年僕の食生活はどこかしら貧しいものだった。

 僕がこの一味を活かしてる間はT内さんはまだまだ生きているんだよネ。